認知症は私たちにとって非常に大きなテーマであり、大きな課題でもあります。
今後も認知症高齢者数が確実に増え続ける中、認知症に対する知識と対応の基本を学ぶこと、認知症を予防するための方法をいち早く実践することが重要になってきます。
認知症の予防を自己責任で行い、自分で防ぐということが、私たちにとって大きな課題なのです。
ここでは、日常生活でできる認知症の予防ケアについてお伝えします。
この記事を書いたライター
林 忠範
難聴というハンデを背負っていても、手話活動で培った豊かな人間性を持ち、人の役に立ちたいと思い、医療・福祉の道へ。先天性難聴を持つ作業療法士として、老人ホーム勤務。趣味は温泉と散歩、ジョキング。不妊治療のおかげで赤ちゃん誕生。一児のパパ。
ブログ:3流作業療法士×Web ~ワーフライフバランス奮闘記~
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認知症になりやすい生活って?
高齢になると誰しも認知症になるリスクが潜んでいます。
認知症の発症と進行には加齢によるものですが、他に認知症になりやすい生活スタイルも危険因子の一つです。
ご自身の生活スタイルを振り返り、次のような生活習慣が続いているのであれば、認知症の徴候が出ているかもしれません。
- 運動習慣がない
- 趣味などやりたいことが全くない
- 外出せず、ほとんど家にいることが多い
- 家族や友人との会話が少ない
- 食事に品目が少なく栄養バランスが悪い
- 買うつもりだった物のいくつかを買い忘れることが増える
- 家事を全くしない
- 日付や曜日に無頓着
- 「あれ」「それ」と指示語を多用する
- 納豆やアロマなどニオイに気付かない
このような生活習慣が続くと他の危険因子も重複することになり、認知症の発症リスクがより高まります。
認知症は一度発症したら治療が困難な症状ですので、早期発見のためにも、現在の生活スタイルを見直し、改善できるところから少しずつ取り組んでみてください。
ご自身だけでなく、ご家族の人の様子も確認してみてください。
いち早く初期徴候を察知することが大切
認知症の人の受診のきっかけは、ご家族の気付きによるところが大きな割合を占めています。
ご家族が認知症に対する認識不足や情報共有の欠如により、病院受診など対応が遅れると、認知症の症状がより進行してしまうこともあります。
ご家族がいち早く初期徴候を気付くにはどうしたらいいでしょうか?
特に意識したいのが次の4点です。
- 物忘れがひどい
- 日時や曜日が分からない
- イライラする、怒りやすい
- 気力がない、意欲が乏しい
これらの初期徴候をいち早く察知し、早期治療につなげていくことが認知症の症状進行を抑えるために大切なことです。
日常生活で認知症予防!
ここからは普段の生活でできる認知症の予防ケアをご紹介します。
有酸素運動で脳を活性化!
定期的に運動を行っていますか?
運動不足が原因で、アルツハイマー病の発症リスクが高いと言われています。
アメリカの研究報告によれば、【運動不足>うつ病>喫煙>高血圧>低学歴・肥満>糖尿病】と発症リスクの高い順が並べられていました。
認知症は記憶を司る海馬から萎縮するのですが、運動することで海馬の萎縮を食い止める効果があるとされています。
では、どんな運動が良いのでしょうか?
それはウォーキング、ジョギング、水泳、ストレッチ、ダンス、自転車漕ぎなど有酸素運動です。
有酸素運動による認知症予防の機序としては、脳に酸素が取り込まれることで、前頭葉や海馬の動きが活性化され、記憶力や注意力がアップすると言われています。
それだけでなく、アルツハイマー型認知症の原因とされているβアミロイドの蓄積を防ぎ、予防になる推測されています。
週3回の息を弾む程度の有酸素運動を半年~1年間継続して行うと、海馬の大きさが2%大きくなったと研究結果があります。
有酸素運動時に、デュアルタスクトレーニングを取り入れるとより効果的です。
デュアルタスクとは2つのことを同時に行うという意味です。
例えば「歩きながら引き算をする」、「自転車漕ぎをしながらしりとりをする」がそうです。
運動を義務的に行うのではなく、楽しい環境の中で遊びや学習の要素も取り入れた有酸素運動を行うようにしましょう。
イライラするならストレッチでストレスを解消!
脳の働きが鈍くなると情報処理がスムーズに処理できず、ストレスが蓄積する要因になります。
このストレスが海馬を攻撃し萎縮させると記憶力が低下します。
ストレスを緩和するのにストレッチが有効とされています。
ストレッチで脳に快感やリラックス感を与えますので、脳が喜びを感じるとストレスが解消されて脳の活性化につながります。
試しに英雄というヨガポーズを取ってみてください。
気持ちよさが脳に広がってきませんか?
この快感が脳の活性化につながるのです。
就寝前の10分間程度でもいいので、定期的にストレッチを行ってみてください。
ただ脳は見返りのある行動や行為を好むので、毎回同じストレットを行うのではなく、1か月単位でストレッチの内容を変える必要があります。
同じストレッチ内容が続くと脳が飽きて活性しづらくなるからです。
魚や野菜、大豆を摂ろう!
青魚は認知症の予防になると耳にしたことがあるでしょう。
それは青魚に含まれる、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)という2つの脂肪酸の働きによるものです。
最近では、鯖缶を使ったレシピ本が出るほど人気があります。
鯖缶だけでなく、野菜や果物も認知症の発症リスクを低減させるのに最適な食材です。
野菜や果物の摂取量の多い人が少ない人に比べ、アルツハイマー型認知症の発症リスクは3割に抑えられると言われています。
これはビタミンEやビタミンC、ベータ、カロチンのおかげなのです。
大豆は昔から血液をサラサラにして、動脈硬化を防ぐ効果があると言われています。
それは大豆に含まれているレシチンやサポニン、イソフラボン、グリニシンといった成分によるものですが、なかでもレシチンは記憶力を助ける働きが注目されています。
普段の食卓に豆腐や納豆をプラスとして置かれてみてはどうでしょうか?
噛むことが脳の活性化に!
8020運動という言葉があります。
これは80歳になっても20本は自歯があるようにしよう!ということです。
自歯で良く噛むことが脳への多くの血液量を送ることができ、それが認知症の予防にもなります。
血液量が増えるだけでなく唾液量も多く分泌されます。
唾液中に含まれているホルモンや酵素が分泌されると、老化防止や免疫力アップにつながります。
唾液量はよく噛む人で1.5リットル出るそうです。
噛まない人はその半分程度ということですから、いかに噛むことが重要なのかが分かります。
義歯をはめても外れないのは、唾液が義歯と歯茎の間を埋めて吸盤作用があるからです。
義歯がパカっと外れてしまうのは唾液量が不足しているかもしれません。
どんどんニオイを楽しもう!
自分の嗅覚は正常に機能していますか?
檜の香りを嗅ぐと、「懐かしい、昔はよく檜風呂に浸かったものだ」と記憶が蘇ります。
檜の香りが嗅神経を刺激し、その刺激が海馬まで伝達して記憶が想起されるわけです。
あまりニオイがしない人は認知症の徴候かもしません。
アルツハイマー型認知症はβアミロイドという物質が脳の神経細胞を死滅させるわけですが、まず冒されるのが嗅神経とされています。
この嗅神経障害が近辺にある記憶を司る海馬まで広がり、記憶障害をきたすようになります。
嗅覚が鈍くなってくると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが4倍以上と言われています。
アロマやハーブなどさまざまな香りを楽しんだり香りの種類を識別したりと、認知症の予防対策となります。
タバコをやめよう!
喫煙習慣のある人は認知症の発症リスクが2倍増えます。
ですが、非喫煙者でも喫煙者が吐いた煙を吸うと、認知症の発症リスクが30%ほど増えると言われています。
喫煙者が吸う煙(主流煙)よりも喫煙者が吐いた煙(副流煙)の方が、有害物質が多く含まれています。
副流煙は主流煙に比べると、タール3.4倍、一酸化炭素4.7倍、ニコチン2.8倍と高いです。
ニコチンの働きで脳に流れる血液量が減少するため、脳細胞が慢性的に酸欠状態となり脳萎縮につながるリスクがあります。
喫煙者だけでなくご家族の健康にも多大な害を与えることがあるため、認知症の発症リスクを抑えるには禁煙が大切です。
注意分割機能を高めよう!
試しに次の質問に答えてください。
質問2:100から7を引くといくつですか?
質問3:そこから、また7を引くといくつですか?
質問4:そこから、また7を引くといくつですか?
質問5:先ほどの3の言葉を覚えていますか?
質問5で3つの言葉を覚えていたら、記憶保持できていることになります。
計算問題を解いている間に最初の答えが記憶保持できているか、また3つの言葉も忘れずに覚えていられるか、という注意分割機能を確認するためのテストです。
計算問題がクリアできたとしても、3つの言葉を覚えていられなかったら、注意分割機能が低下していることになります。
注意分割機能が低下したら、生活ではどうなるのでしょうか?
例えばガスに火をつけたまま調理している時に、人に呼ばれて火を止めずにその場を離れました。人と話すことに集中してしまい、ガスに火がついていることを忘れてしまっています。
そのような人は注意分割機能が低下しています。
注意分割機能の強化のためには、次のような脳トレがおすすめです。
問題2:明日の3日前の5日後は何曜日?
問題3:おとといの3日後は何曜日? ↓
問題4:12日前は何曜日?
今日という曜日を忘れずに記憶保持できているか、その記憶保持力が注意分割機能強化に結び付くのです。
ワーキングメモリを鍛えるには動作イメージを!
ワーキングメモリとは情報を一時的に保ちながら操作することを言い、作業記憶、作動記憶とも呼ばれています。
次の5つの文章を1分で覚えてください。
- テーブルを拭く。
- 眼鏡をケースから出す。
- 砂時計を逆さにする。
- まな板を立てる。
- 2階の電気スタンドをつける。
1分経ったら紙に書くなり口頭するなり、何個記憶できましたか?
頭の中で文を読んで覚えたり口に出して覚えたりすると思います。
もし数個しか覚えられなかったら、今度は頭の中で動作をイメージしながら覚えてみてください。
【言葉で覚える<それらしい動作をしながら覚える<動作をイメージして覚える】という順で脳活動が強く活動すると言われています。
つまり脳にメモするように動作をイメージしたほうが、より成功率が上がるわけです。
一流のアスリートは最高のパフォーマンスを出すためにイメージトレーニングをしている姿を見たことがありませんか?それと同じです。
イメージトレーニングでワーキングメモリを鍛えましょう!
塗り絵で脳を活性化させよう!
塗り絵は塗るだけの作業ですが、実は、脳を全体的に使っているのです。
例えば、図柄は紅葉だとします。
まず後頭葉にある視覚野で、紅葉の全体像や色、形など認識します。
今度は色を選ぶわけですが、側頭葉にある部位で過去に見た形や色など記憶や経験から配色を決めます。
前頭葉にある部位で、これまでに得られた情報を基に塗りたい色鉛筆を持って着色します。
どこから塗るか場所を決めます。
このように塗り絵は塗る前から脳をフルに回転させて、それが脳全体の動きを活発させているのです。
老人ホームなどで塗り絵を導入しているのは、このためなのです。
折り紙も同じことが言えます。
考えながら折るという作業が脳に刺激を与えています。
しかし指先を動かす作業なら何でも良いわけではありません。
例えば包丁を使う、キーボートを打つなどのような習慣化となっている指先の運動では脳の刺激になりません。
折り紙と塗り絵は普段から行わないだけあって、脳にとっては良い刺激になります。
物を作る喜びが伴いますから、楽しみながら指先を動かしましょう。
笑顔が認知症予防になる!?
最近、腹の底から笑っていますか?
あまり笑わない人は毎日笑う人と比較すると、認知機能の低下がみられる人は2倍以上もいるそうです。
なぜ笑うことが脳に良いのでしょうか?
笑いが脳波にα波が多く出現し、集中力や記憶力が高い状態になり、それが認知機能の低下防止につながるからです。
笑いは人とのコミュニケーションを潤滑にして人間関係を豊かにしてくれる必要なツールです。
作業活動(アクティビティ)を用いて認知症予防ケアを!
普段の生活を営む上で欠かせない3つの活動が含まれています。
- 日常生活活動(生きる)
- 仕事的活動(働く)
- 余暇・遊び・楽しみ・休息(楽しむ)
1から3の活動をまとめて作業活動、またはアクティビティとも言います。
生きる上で必要な作業活動、社会的に必要な義務的作業活動、自由な時間における作業活動という3つのアクティビティを自分ひとりでできるようにすることが、認知症を予防する上で大切なことです。
アクティビティは人の力を最大化するマネジメントでもあります。
さいごに
これまでの生活習慣を振り返り、認知症の発症リスクが高いと思われる行為がありましたら、少しずつ生活習慣を改善できるところから始めてください。
認知症の予防に役立つ青魚や大豆、野菜、果物を意識的に摂りましょう。
バランスの取れた食事はもちろんですが、適度な運動と作業活動(アクティビティ)も大切です。
有酸素運動は脳血流が増加し前頭葉や海馬を刺激し、認知機能の向上に役立ちますので、日頃から運動習慣をつけるようにしましょう。
普段の生活を営む全ての作業活動を主体的に行うことが、日々の生活をより活動的でイキイキになる、それが脳の活力を高める重要なポイントになると思います。
最後になりますが、好きな言葉を紹介します。
「作業することは、自然の最も優れた医師であり、それが人間の幸福についての条件であるBy Galen」