在宅介護について

在宅介護で怒ってしまうときの対処法 ~アンガーマネジメントのすすめ~

介護 アンガーマネジメント-落ち込む女性 在宅介護について

怒りの感情の専門家、一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会の松崎晃一です。

普段の生活の中でもイラッとすることは多々あると思いますが、肉体的負担・時間的負担・経済的負担そして精神的負担と大変なことが続く「在宅介護」ではなおのことイライラが募り、思わず強い怒りを露わにしてしまうこともあるかと思います。

要介護者に怒りをぶつけてしまって「後悔」したり、ふとした瞬間に楽になりたいと頭をよぎった思いに「罪悪感」を抱いたり、いつまで続くか「不安」になることも少なくないと思います。

在宅介護は常に要介護者と介護者の怒りやイライラとの戦いではないでしょうか。

逆を返せば怒りと上手につきあえるようになれば精神的負担が軽くなってきますので、対処法として怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング術である「アンガーマネジメント(Anger Management)」をぜひ身につけてください。

この記事を書いたライター
在宅介護 アンガーマネジメント-松崎 晃一 様松崎 晃一
大学卒業後、大手販社に入社2年目で全国セールスコンテストで1位を獲得。その後、家業の後継者として経営に携わるが退職者が続出し悩む中で様々な心理学を学びアンガーマネジメントと出会う。
現在は創業五十年の企業経営しながら講師として講演、企業研修、セミナー等を行い、2019年に合同会社アロー・パートナーシップラボを起業。「受講者に寄り添う研修」をモットーに紹介・リピート率は80%を越える。

※本ページにはPRが含まれます。

「怒り」は対処できる!

そもそも人はなぜ怒りを感じるのか? その正体とメカニズム、対処方法を考えていきます。

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1.怒りの正体は「べき」

入浴は介護の中でも大変なことの一つですが、それでも要介護者に少しでもリラックスして欲しいと願い介助します。

いざお風呂をでようと要介護者にも手すりしっかり握ってほしいのですが、上手く握れず姿勢が崩れかけて「しっかり握ってよ!」と思わず声を荒らげてしまうこともあるでしょう。

この時「なんで出来ないんだろう」「こっちの苦労も知らないで」「少しは協力してくれても」
などと思っていないでしょうか?

人は怒りを感じると出来事や相手に原因があると捉えがちです。

しかし怒りは「べき」という自分自身の価値観から生じます。

つまり自分の理想と目の前の現実にギャップがあった時に感じるのが「怒り」の感情の正体なのです。

「べき」「べきではない」「ねばならい」「普通」「当然」「当たり前」といった言葉を使って表現する時、人は環境や経験や知識から育まれた自分の価値観から発しています。

その代表格が「べき」という言葉で、あらためて考えると人は驚くほど多くの「べき」を持っていますし、無意識に行動しているようでも自分の「べき」に従っているものです。

「べき」とは自分の理想やこうあって欲しいという願いの象徴です。

ただ介護の中では自分の理想通りに事が運ぶのは難しいのが現実です。

「べき」をもつのはわるいことではないのですが、良かれと思ってしたのにそれが原因でイライラが続けばストレスでまいってしまい、誰のためにもなりません。

ここからが重要で、イラッとしたり怒りを感じた時、誰かのせいや出来事のせいと思うのはなく、自分の価値観と違ってただけと認識する事が出来たならば怒りのコントロールは格段にし易くなります。

出来事や他人をコントロールするのは至難ですが、自分の認識や捉え方は自分の意思でコントロールが可能だからです。

つまり自分の「べき」を上手に扱えるようになれば、自分の感情と上手につきあえます。

2.怒りのメカニズム

人は知らないことに不安になります。

そして知らないことには対処ができません。

怒りのメカニズムを理解して在宅介護の怒りに対処していきましょう。

怒りのメカニズムはライターのように炎とスイッチと燃料に分けて考えると理解がし易くなります。介護 アンガーマネジメント-怒りのメカニズム

怒りは感情表現の一つですが、それは炎のようなもので、ものすごいエネルギーを持っていて、時には燃え上がってしまうこともあります。

怒りの書き込みがあふれるSNSは炎上とも表現されたりします。

では怒りのスイッチはというと「べき」が裏切られた瞬間です。

火がついたように怒るとよく言いますが、ライターのスイッチによって散った火花にガスが引火したようなものです。

入浴介助で要介護者に手すりを握ってもらえなかった瞬間、「しっかり握ってよ!」と必要以上に相手に怒りを向けてしまったり、もっと私がしっかり介助できていればと自分に怒りが向かったりと、怒りは他人も自分も傷つけてしまいます。

介護される側も協力する「べき」や、介護する人の苦労も理解する「べき」など、介護をしている自分がどんな「べき」を持っているかを意識して、重要でない「べき」を手放すことで、怒りだす機会はおのずと減っていきます。

怒りにスイッチがあることが意識できるようになれば、無意識に怒りださず、自分の意思によってそのオンオフを決めることが出来るようになります。

ライターのガスのように怒りの燃料となるのがマイナスな感情や状態です。

在宅介護では、介護のそのものの辛さ、要介護者への心配、上手く介助できなかった時の罪悪感、頼れる人のいない苦しさと、様々な負担によりマイナスな感情がたまりがちです。

私自身も介護で親を看取った経験がありますが、いつまで介護が続くか分からない不安から、「早く解放されたい」と思いがよぎり、亡くなってから数年はどうしてあんなことを考えてしまったのだろう、もっとしてあげられる事はなかったかと罪悪感に苛まれました。

マイナスな感情を手放すのはなかなか難しいことですが、まずは自分の中に不安だとか焦っているといった感情があることを認めてあげることが大事です。

認めることをせずに頑張り過ぎたり完璧を目指し過ぎたりすると、ますますたまっていき、良くない方向へ向かったりもします。

疲れや寝不足、体調不良や空腹でもイライラしやすくなります。これがマイナスな状態です。

休む間もない在宅介護にあっても、自分自身が休息をとることも介護の一環と考えて、意識して身を休めたり寝る時間を確保するよう心がけてください。

3.対処方法

今回の寄稿にあたり何人か介護経験者にインタビューをしましたが、自分でやりきれないことは、積極的に専門家の助力を得ることをすすめていました。

介護者自身が倒れたり、介護を投げ出したくなっては、それこそ共倒れに成りかねません。

まずは自分自身の心身のコンディションを整えることが大切です。

また在宅介護では家の中でうつむく姿勢が多いと思いますが、たまに外にでて空を見上げて背筋を伸ばし深呼吸してみてください。

忙しい中でも簡単にリラックスできることを用意すればストレス解消につながります。

まずため込まないようにしてください。

ケアマネジャーや医療関係者といった協力者と良好な関係を築き助力を得るためにもアンガーマネジメントは役に立ちます。

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イラッとしたら『6秒ルール』

関係が良好であれば大変な介護も少しは気が楽ですが、関係性がわるくなると、同じ介護でも辛くなってきます。

関係性を悪化させる最大の要因が反射的なコミュニケーションです。

イラッとしてすぐ大きな声をだしたり強く怒りすぎると、あとで後悔したりします。

後悔はマイナスな感情となり次の怒りの燃料となってまた「怒る」の悪循環をおこします。

イラッとしたり怒りを感じたら反射せずに待つ『6秒ルール』をまずは行ってください。

怒りを感じると身体反応でホルモンが分泌され一種の興奮状態となり血流量が増えます。

頭に血が上ると言ったりしますが、この間は理性が働きづらく感情的な言動を取り易いので、6秒をやり過ごすことで理性的が介入できるようになります。

怒りに温度をつける(スケールテクニック)

6秒をやり過ごす方法としては「スケールテクニック」が有効です。

私たちが身近に使っているスケールの一つに天気予報の気温があります。

怒りやイライラといった目に見えないものにも体感的な温度をつけてみると、その高低がイメージし易くなります。

怒りと上手につきあいにくい理由の一つが、計る尺度がないことです。

そのため怒りを比べられず、毎回同じように怒って後悔します。

方法はイラッとしても反射せずにまずこの怒りは何点かと考えます。

怒ったりイラッとしたら0~10のメモリでその出来事を点数化します。

介護 アンガーマネジメント-怒りの温度

軽くイラッとしたら1~3点、まあまあ腹が立ったら4~6点、とても頭にきたら7点以上と、怒りという主観的なものを数字という客観的なものに置き換えて考えるクセをつけてください

この怒りは何点かな?前にも似たようなことがあったかな?と考えているうちに6秒が過ぎてクールダウンすることができます。

怒りは感情という主観的で捉えづらく理解しにくいものですが、それを数値化し尺度を持って考えることで客観的に扱えるようになり、自己理解につながります。

最初は温度を高くつけてしまうかもしれませんが、このトレーニングを繰り返すうちに、適切な温度感で相手に伝えられるようになってきます。

身近な人にほど怒りは強くなる

知っておいてほしいのが怒りは身近な人にほど強くなるということです。

他人にはぶつけないような強い怒りで親や子など親しい人に当たってしまった経験や、親の言うことにカチンときたり、しつこく感じイラッとした経験はないでしょうか。

介護ともなればなおさらで、「少しはこっちの身にもなってよ」という気持ちから語気が
強くなったり、つい力がはいってしまうことも多々あることでしょう。

その関係性が身近であるほど「分かって欲しい」という気持ちや、「言わなくても分かるだろう」と思い込みから、より強い怒りをぶつけがちになります。

本当は大切にしたいのに介護の大変さから当たりがきつくなるのは本末転倒です。

怒りのメカニズムを理解する、「6秒」待つといった対処が必要なのです。

そもそも怒りは人間にとって必要な感情であり、怒ることはけっして悪いことではありません。

怒りは人間が生まれつき持っている自然な感情であり、生きていくうえで必要不可欠です。

怒りは身を守る為の感情、防衛感情だからです。

問題があるのに怒らないことを目指したり、怒りは抑えこんでしまったら、かえって怒りをため込むことで心身の不調を招いてしまい本当の意味での解決には至りません。

だからアンガーマネジメントでは怒らないということは目指しませんし、ましてや怒ることで罪悪感を覚えることはありません

怒る必要があれば怒って良いのです。

怒りを感じることは人として自然なことなのです。

より良い関係を築くためのアンガーマネジメント

「アンガーマネジメントってガマンすることなの?」と思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。

ガマンはストレスとなり怒りのメカニズムでお伝えした怒りのエネルギー源となるので、より怒りを露わし易くなってしまいます。

大切なのはより良い関係を築いていこうとする意思です。

ガマンではなく「べき」に折り合いをつけていくにはどうすれば良いのでしょうか?

「長期的に見て、自分や周りの人にとってプラスなのかマイナスなのか?」と、問いかけ行動することです。

アメリカのアンガーマネジメントでは「long term health(=長期間の健康)」という表現で使われています。

「人生」をより良くしたり、より意味あるものにしてくれる「べき」は重要で、「人生」をマイナスにしたり、その場は良くてもあとで後悔したり、結果的に誰も幸せにしない「べき」は重要ではないと、「人生」という枕言葉をつけて長期的視点で考えたならば、重要な「べき」そう多くはないと思います。

自分だけではなく周りの幸せにまで視野を広げて、小さなことに縛られない大らか人生を
送り易くなることが、介護者と要介護者にとって良い介護につながると信じています。松﨑

(資料出典:(社)日本アンガーマネジメント協会

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