毎日健康に生活していると、「死」について深く考えたことがない人が多いでしょう。
「どのような人生の最期を迎えたいですか?」と聞かれても、明確な回答ができる人はほぼいないのではないでしょうか。
しかし、「死」というのは誰しもに訪れるもので、高齢になればそれが身近に感じ始めてしまいます。
高齢の親をもつ方は、本人がどのような最期を望んでいるのかしっかりと把握しておく必要があるのです。
病状などが悪化してしまえば、自分の意思を伝えられなくなってしまうこともあるので、元気なうちに「死生観」も持っておくことが大切でしょう。
そこで今回は、死生観について詳しく解説していきたいと思います!
死生観の意味や、よりよい介護を迎えるために考えておきたいことなども詳しく説明していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください!
※本ページにはPRが含まれます。
死生観とは?
死生観とは、文字通り死ぬこと生きることについての考え方です。
人間みんないつかは死んでしまいますが、死後の世界については誰もわからないので、考え方や価値観は人それぞれです。
死について考え始めるタイミングも人それぞれでしょう。
海外では、宗教から影響を受ける人が多くいます。
宗教を信仰している人が多く、死や死後の世界についての教えが説かれているからです。
一方で、日本には無宗教の人が多く、宗教から死生観に対して影響を受けにくく、考える機会も少なくなっています。
また、古くから日本では、死について考えることはタブーとされてきました。
しかし、近年では「終活」といった言葉が広まり、死について考え準備することが一般化してきています。
人生の最期をどう迎えたいかを考え、死に対して準備することが決して悪いことではないという考え方になってきているのです。
死生観をもつことで「死」と向き合える
死生観を持つことで生まれるメリットは、「死」と向き合えるということです。
先ほど述べた通り、死後については誰もわからないので、漠然とした恐怖がありますよね。
しかし、死生観をもつことで死について考えるようになり、漠然とした恐怖や不安が軽減されるのです。
そのため、死が近づいても残りの人生を満喫することができるでしょう。
また、自分にとってよりよい最期を迎えることができ、残された家族も困らせないといったメリットもあります。
死生観とは:①最期をどこで迎えるのか
人生の最期をどこで迎えるかは、とても大切なことです。
老衰で自然に死を迎えられることを誰しもが望んでいるかもしれませんが、寿命が伸びたことで病気を患ってしまう高齢者は増えました。
現在の日本でも、治療が可能な場合は治療を行うというのが一般的な考え方です。
日常的な医療ケアが必要になってくることが多いので、病院などでしか人生の最期を迎えられないと思っていませんか?
しかし、近年では看取り介護や終末期医療が発達しているため、病院以外でも最期を迎えることができます。
人生の最期を迎える場所として、以下の4つを紹介していきます。
- 病院
- 介護施設
- 自宅
- ホスピス
病院
まずは、みなさんがよくイメージする病院です。
医師や看護師などの医療スタッフがすぐ近くにいるため、体調が急変したときでもすぐに対処してもらえるといった安心感があります。
一方で面会時間などが決まっているため、家族が四六時中一緒にいられるわけではありません。
安心感はありますが、看取れない可能性もあるということです。
介護施設
看取り介護に対応している介護施設のみ、看取りを行ってもらえます。
日常生活のサポートも受けられて、看取りに関してはご本人とそのご家族の希望をしっかり尊重してくれます。
介護施設ではレクリエーションなども行われているので、他の入居者の方ともコミュニケーションが取りやすく孤独も感じにくいでしょう。
しかし、共同生活になってしまうので、自宅のような自由はあまりないでしょう。
自宅
住み慣れた自宅で最期を迎えられるのは、とても安心できますよね。
安心感や過ごしやすさで比較したら、一番ではないでしょうか。
しかし、病院のように24時間専門スタッフが常駐しているわけではないので、不安はあるでしょう。
心配で24時間つきっきりで介護を行う家族も少なくないので、家族にとっても大きな負担がかかります。
もし、自宅での看取りを考えているなら、訪問看護や夜間対応型訪問介護などの在宅介護サービスを利用することをオススメします。
ホスピス
ホスピスとは、治療を行うことが難しい病状にある人に対して、身体的・精神的苦痛を取り除くようなケアを行う施設のことです。
簡単に言えば、ターミナルケアを行ってくれる施設ということですね。
ホスピスでは、延命治療を受けることはできませんが、痛みなどを緩和して自分らしい最期を迎えるためにサポートしてくれます。
体調がよければ、自宅に戻って宿泊することも可能です。
しかし、ほとんどの施設ががんやエイズ患者で末期状態の人のみの受け入れに限定しています。
死生観とは:②尊厳死について
尊厳死とは、延命治療を行わず人間としての尊厳を守りながら死を迎えることです。
「一般財団法人 日本尊厳死協会」では、「不治で末期に至った患者が、本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断わり、自然の経過のまま受け入れる死のこと」と定義されています。
病状が末期であることがわかった場合に、延命治療を続けるかどうかはご本人だけでなくご家族にとっても大切な選択です。
状態によってご本人の意志が確認できない場合は、尊厳死を希望するかどうか、ご家族にジャッジはゆだねられる場合もあるでしょう。
ご家族が延命治療を希望しても、その判断が本人の意思に反してしまっていることもあるかもしれません。
ご本人とそのご家族両方の希望に沿った最期が迎えられるよう、事前にしっかり話し合いをしておきましょう。
参考元 公共財団法人:日本尊厳死協会
日本で「安楽死」は認められていない
尊厳死と似たような意味で、「安楽死」という言葉も耳にしますよね。
安楽死とは、医師などの第三者によって薬物投与などを行い積極的に死を早めることです。
延命治療を行わず病状が末期である本人の意思に基づいていることは尊厳死と変わりませんが、日本では安楽死は認められていません。
海外でも、スイス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルク・アメリカの一部の州などでしか安楽死は認められていません。
死生観とは:③死ぬ前にやりたいこと
死生観をもつにあたって、死ぬ前にやりたいことを考えておきましょう。
死ぬ前にやりたいことを考えるにあたって、以下の3つのステップが必要になってきます。
- これまでの人生を振り返る
- 「やり残したこと」はないか考える
- 残りの人生の過ごし方を決める
これまでの人生を振り返る
記憶を掘り返して、これまでの自分の人生を振り返ってみましょう。
ひとつひとつの体験を思い返すことで、新たにしたいことなどが出てくるかもしれません。
「やり残したこと」はないか考える
「やり残したこと」はないか考えましょう。
これまでの人生を振り返ってみると、「昔行ってたレストランに行きたい」「高校のとき仲良くしてた友人に会いたい」「夫婦の思い出の場所にもう一度行きたい」など、やりたいこと・やり残したことが意外と出てくるものです。
やり残したことが出てきたら、紙などに書いてリスト化しましょう。
そして「すぐに実行できるもの」と「すぐには実行できないもの」に分類しておくことが大切です。
残りの人生の過ごし方を決める
やり残したことリストの中から、「すぐに実行できるもの」からどんどんやっていきましょう。
残りの人生の時間は決まっているので、どうしてもやりたいことから優先的にやっていくことも大切です。
緩和ケアとは?
緩和ケアとは、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、 苦しみを予防し、和らげることで、QOLを改善するアプローチである」と2002年にWHOによって定義されています。
ちょっと難しい文章ですが、日本緩和医療学会によって以下のように完訳が作成されています。
- 痛みやその他のつらい症状を和らげる
- 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
- 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
- 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
- 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
- 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
- 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
- QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
- 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む
引用元 日本緩和医療学会:緩和ケアの定義
これまでは、がんに対するひと通りの治療を終え、それでも回復が見込めなかった患者さんに対して行われるのが緩和ケアだと考えられていました。
がん治療と緩和ケアの間に、はっきりとわかる境界線があったということです。
しかし、近年ではがん治療と緩和ケアは同時進行で行われるべきであると定義されはじめ、経過段階に関わるケアとされています。
痛みなどを和らげるケアだけでなく、がん宣告時の精神的なサポートまで緩和ケアの一環となっています。
もちろんご家族への心理的ケアもその内のひとつで、死後を含むがんに関わるあらゆる段階における苦痛を和らげることが緩和ケアの目的です。
緩和ケアを受けることによって、治療中に感じる痛みや吐き気、嫌悪感などが和らぐので、治療に前向きに取り組む姿勢になるといったメリットもあります。
つまり緩和ケアとは、がんと共生できるようにするケアともいえるんですね。
アドバンス・ケア・プランニングとは?
アドバンス・ケア・プランニングとは、これからの治療・療養に関して、患者さん本人とそのご家族、医療スタッフがあらかじめ話し合うことを指します。
あらかじめ話し合っておくことで、本人に「万が一のこと」が起きた際に自分の意思が尊重され治療やケアに取り掛かってくれるので、とても重要なことです。
また、ご本人に万が一のときが起きたとき、大変なのはご家族も一緒です。
急な対応に追われ、どうすればいいのか混乱してしまうことも多々あるでしょう。
その際に、アドバンス・ケア・プランニングをしておけば、どのような行動を取ればいいのか判断できるので安心です。
アドバンス・ケア・プランニングには、具体的に5つのステップがあります。
それぞれ詳しく確認してきましょう。
- 人生で大切にしていることはなにか考えてみよう!
- 信頼できる人は誰か考えてみよう!
- 主治医に質問してみよう!
- 信頼できる人と話し合おう!
- 主治医や看護師に伝えよう!
1.人生で大切にしていることはなにか考えてみよう!
「死ぬ前にやりたいこと」の項目であったように、自分の人生を振り返ってみると大切にしていることが見えてきます。
家族・友人・1人の時間など、人によって大切にしていることは違うでしょう。
大切にしていることが見えてきたら、そこからさらに考えを進めて親しい人が亡くなってしまったときのことを思い出してみてください。
そのときに何を感じたのかをもとに、どのような最期が望ましいか考えていきます。
「私はこんな最期は嫌だ…」と感じてしまっても問題ありません。
具体的になにが嫌だったのかを考えましょう。
このような考えを巡らせたところで、最終的にもし自分が危篤などになった際にどのような治療・ケアを受けたいのか考えるのです。
2.信頼できる人は誰か考えてみよう!
次に、誰が信頼できるのかを考えます。
ここでいう信頼できる人というのは、病状が悪化して自分の意思を伝えられなくなったときに、自分の代理として「どんな治療・ケアを受けるのか」「どこで最期を迎えるのか」といったことについて、話し合ってくれる人のことです。
信頼できる人は、1人しか選んではいけないといったわけではありません。
信頼できる人が2人いる場合は、その2人で話し合って決めてほしいといった意思えお伝えておくこともできます。
3.主治医に質問してみよう!
既に療養中であるなら、自分の病状や今後の治療方針などを医師に質問しておきましょう。
ある程度の説明は受けているとは思いますが、その中に少しでも不明点や疑問点がある場合は、早めに質問しておくことが大切です。
患者さんは医師に以下のような質問を主にすることができます。
- 治療・ケアを受けることによって生まれるメリット・デメリットまたはリスク
- 別の治療・ケア方法
- 治療・ケアを受けることで日常生活にどのような支障がでるのか
- 今後の病気の経過
- 治療が困難な理由、余命など
しかし、「今後の病気の経過」や「余命」に関しては、自分が本当に聞きたいのかを考えてから慎重に質問するようにしましょう。
その際に、「なぜ知りたいのか・知りたくないのか」についても考えてみるといいかもしれません。
知りたいことがあれば思いついたときにメモしておくと、主治医にあった際にスムーズに質問でき漏れもなくなります。
4.信頼できる人と話し合おう!
ご本人がしっかりと意思を伝えられる内に、どのような最期を迎えたいのか話し合っておきましょう。
どのような治療・ケアは受けたいのか、または受けたくないかなど、信頼できる人としっかり話し合いをしておくことが大切です。
アドバンス・ケア・プランニングでは、以下のどの目的に沿った治療・ケアを受けたいのか決めておく必要があります。
- 延命を重視する
- ある程度の延命効果で一般的な内科治療
- 延命より、苦痛の緩和を重視する
延命を重視すれば、その分治療に関する苦痛はひどくなります。
苦痛を緩和することを目的としてしまえば、自分らしくは生活できますが延命効果は期待できないでしょう。
一般的な内科治療では、最低限の延命治療だけ受けていくといった形になります。
この3つの選択肢を軸に、「受けたい治療」「受けたくない治療」を明確に決めるよう話し合っておきましょう。
5.主治医や看護師に伝えよう!
信頼できる人との話し合いが済んだら、その結果を主治医などに伝えておくようにしましょう。
もちろん、話し合いの段階から主治医や看護師に参加してもらうのもいいかもしれません。
ご本人と信頼できる人が話し合って決めた結果が、医療スタッフの方との方針と異なってしまった場合、どう判断すればいいのかわからなくなってしまいますよね。
いざというときにその食い違いが発生しないためにも、事前に医療スタッフや介護スタッフとも話し合いを進めておき、自分の意思を伝えておきましょう。
また、話し合いは一度で終わらず、必要に応じて複数回行うことも大切です。
時間や体調の経過とともに、気持ちが変わっていくことも多くあります。
気持ちに変化があるのに、それを伝えないでいたら結局ご本人が受けたくない治療やケアが実践されてしまうということです。
せっかく話し合いができる環境や体調が整っているのであれば、気持ちの変化があったときには随時周りの人に伝えるようにしましょう。
引用元 神戸大学:これからの治療・ケアに関する話し合い-アドバンス・ケア・プランニング-
まとめ∼死生観とは∼
最後まで読んでいただきありがとうございます。
死生観については理解していただけたでしょうか?
「死」について考えることはタブー視されてきましたが、しっかり「死」に向き合っておくことでよりよい人生の最期が迎えられるということがわかりましたね。
また、自分の死ですが1人だけで考えるのでなく、ご家族や友人、医師など信頼できる人ともしっかり話し合いをしておくことが大切です。
「終わりよければすべて良し」といった言葉があるように、「死」というのは良い人生として締めくくるためにもとても大切なことなのかもしれません。
ぜひ今回の記事を参考にして、「死生観」についてじっくりと考えてみてください!
ご本人やご家族の希望に沿った最期が迎えられるよう、心より祈っています。