今回は、ホームヘルパー(訪問介護員)として仕事をしていく中で必要な資格の1つである「介護職員初任者研修」についてお話しを進めていきたいと思います。
「介護の仕事をしたいけれども、何からすればいいかわからない」
「介護の資格はたくさんあるけれども、どれを勉強すればいいかわからない」
これらの質問は、介護の仕事に興味はあるけれども、なかなか前に進めない人からよくされる質問です。
確かに、求人広告を見ても、「○○の資格が必要です」という聞き慣れない資格名が載っていますので少し躊躇してしまいますよね。
そこで、冒頭にも書きましたが、介護の現場で今最も求められている「介護職員初任者研修」とはどのような資格か、介護の資格の取得ポイントなどをまとめながらお話ししていきます。
この記事を書いたライター
馬淵 敦士(まぶち あつし)
かいごのがっこう「ベストウェイケアアカデミー」学校長。
近畿大学・四天王寺大学非常勤講師、奈良教育大学大学院教育学研究科修了。
修士(教育学)・介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・小学校教諭及び特別支援学校専修免許状
介護人材育成を中心に学校運営を行う傍ら、福祉教育学を研究。
人材不足解消の手立てについての取り組みを進めている。福祉系受験対策講座を全国で行い、各種書籍も執筆。
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介護職員初任者研修はだれが受けられるの?
漢字ばかりの名前であり、難しい資格かな?と思われますし、「初任者」という言葉がついていますので、「介護の仕事の初心者が受ける資格かな?」と勘違いもされてしまいます。
しかし、介護職員初任者研修は全く介護のことを知らない人も受けることができます。
なので、みなさんが介護のことを全く知らなくて、これから介護の仕事をしたいな、と思われたら、まず基本的には介護職員初任者研修を取得することとなります。
介護職員初任者研修はどこで受けられるの?
介護職員初任者研修は、都道府県知事から指定を受けた学校で受講することができます。
また、ハローワークで実施されている公共職業訓練(ハロートレーニング)などでも介護職員初任者研修が実施されている場合もあります。
情報収集としては、インターネットの検索で「介護職員初任者研修 ○○」(○○は地域名)と調べるとみなさんのお近くの学校が出てくるでしょう。
介護職員初任者研修では何について学ぶの?
介護職員初任者研修のカリキュラムは国(厚生労働省)で定められています。
よってどの学校でも同じ内容を学ぶことになります。
国のカリキュラムは全体像しか記載されていませんが、ここでは具体的にどのような内容を学んでいくのかを少し細かくまとめていきたいと思います。
- 職務の理解
- 介護における尊厳の保持・自立支援
- 介護の基本
- 介護・福祉サービスの理解と医療との連携
- 介護におけるコミュニケーション技術
- 老化の理解
- 認知症の理解
- 障害の理解
- こころとからだのしくみと生活支援技術
①職務の理解
介護の仕事とはどのようなものかを介護の現場のお話しを通じて理解をしていきます。
ひとことで介護の現場といってもさまざまですし、どういった場所で働くのか、どのようなことをするのか、ということがわからない人も多いです。
そこで、この項目では、介護について全くイメージがわかない人であっても、「特別養護老人ホームはどのような場所か」「デイサービスではどんなことをするのか」などを動画を使用したり、現場の講師の話を聴いたりすることで、介護の仕事を具体的にイメージしてもらうことができます。
②介護における尊厳の保持・自立支援
介護に携わるための基本的な考え方を学んでいきます。
単に高齢者や障害者に対して食事の介護などをするだけではなく、なぜ介護が必要なのか、高齢者や障害者にどのような考えで接するのか、ここでいう「自立」とはどのようなものなのか、などを考えていく項目になります。
ただ、現実高齢者や障害者に対して「尊厳の保持」が具体的にどのようなことを指すのかは現段階で難しい場合があるので、学びを進めながら確認をしていきます。
③介護の基本
ここでは、介護職としての考え方を幅広く学んでいきます。
まず介護職とは何か、利用者との関わり方などを理解していきます。
同じ高齢者や障害者であっても、家族が行う介護と介護職が行う介護は異なります。
具体的な内容については別の項目で学びますが、最初にこの考え方をもつことが非常に重要です。
さらに、介護職としての職業倫理や安全も学びます。
高齢者や障害者に対して安全な介護を行うのに合わせて、介護職の職業病といわれる腰痛などの予防や、メンタルヘルスについても理解します。
④介護・福祉サービスの理解と医療との連携
ここでは主に制度について学びます。
介護については、高齢者は介護保険法、障害者は障害者総合支援法という別の制度で運用されていることを中心とし、障害者差別解消法、虐待防止法(高齢者・障害者)や主に認知症高齢者を保護する成年後見制度や日常生活自立支援制度など幅広く学びます。
一見介護には関係なさそうな制度も利用者に正しい情報を伝えなければなりませんので、一定の理解は求められます。
また、医療との連携も重要です。
医療制度について学ぶのと同時に、高齢者・障害者が必要としている医療の情報を共有する重要性を理解します。
介護職は基本的に医療行為を行うことはありませんが、高齢者・障害者がどのような医療行為を受けているのかは理解しなければなりません。
なぜなら、介護職が支援をしている時、高齢者・障害者に体調の変化が生じた場合の対応がスムーズとなるからです。
例えば、外出時に意識を失い、救急車を呼ばなければならない事態が生じた際、救急隊員に利用者の受けている医療行為や医療情報を伝えると、適切な処置に繋がり、それが利用者の命を救うこともあるからです。
「直接的な医療行為は基本的には行わないが、利用者の医療情報は重要」と頭に入れていただく項目でもあります。
⑤介護におけるコミュニケーション技術
生きていく中でコミュニケーションは重要だということは理解できるかと思いますが、ここでは高齢者・障害者に対するコミュニケーションを学びます。
とはいえ、特に変わったことをするわけではありません。
高齢者・障害者に対しては伝わりやすい「工夫」が必要となってきます。
例えば、言語障害のある障害者に対してのコミュニケーションでは、介護職が話す内容については理解していただけても、障害者側からの発信(言語)が聴き取りにくい場合があります。
その場合は「何度か聞き直す」「筆談にしてもらう」などでコミュニケーション(意思の疎通)を図ることができます。
また、認知症高齢者の場合は、こちら側からの発信(言語)を理解していただけないことがあります。
言語では伝わりにくい場合は、ジェスチャーや写真、イラストなどを活用して伝わるような支援方法が考えられます。
このように、言語を用いないコミュニケーションを「非言語的コミュニケーション」といい、高齢者・障害者とのコミュニケーションでよく用いる手段となります。
この項目では、非言語的コミュニケーションについても細かく学んでいきます。
また、高齢者・障害者に対してだけでなく、仲間とのコミュニケーションの重要性も学びます。
介護職は単独で動くことはできません。
高齢者・障害者を中心としてチームで動くこととなることを理解します。
例えば、介護職が支援をしていたところ、ある変調が見られた場合、これを他の介護職や医療職に報告をしなければなりません。
それを放置しておくと、重篤な疾患を見逃してしまう可能性もあるからですね。
それらを踏まえて、対人援助職である介護職は、コミュニケーションが重要であるということを再確認していただく項目となっています。
⑥老化の理解
高齢者の特徴などについて学んでいきます。
老化とは何かと一言で聞かれても理解ができない部分が多くあり、それらを具体的に確認していきます。
例えば、年齢を重ねると血圧はどうなるか、肺活量はどうなるかといったバイタルサインの特徴を理解したり、認知機能の低下の状態などを理解したりします。
難しい病気までを覚えていくわけではなく、高齢者によくある症状など(高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、それが原因となる脳卒中や心疾患などの疾病など)の特徴を理解し、このあと学んでいく実技や演習に活かしていくこととなります。
⑦認知症の理解
「認知症」という言葉はよく聞くと思うのですが、正しく理解されていないケースがあります。
認知症のことを正しく理解できていないと、認知症の高齢者に正しい支援ができなくなります。
そこで、この項目では、「認知症の定義」を確認し、「認知症ともの忘れの違い」や「認知症の症状」などを学んでいきます。
この項目によって、多くの人の中にある「認知症に対する誤解」を取り除くことができますし、認知症の高齢者に対する支援の内容や方法も理解することができます。
また、認知症高齢者の家族への支援についても学びます。
家族が認知症高齢者の介護の大部分行っているケースも見られます。
その場合、介護職として認知症高齢者に関わるのと同時に家族にも関わることとなります。
どのようにすれば家族の介護負担が軽減できるのか、介護職としてのアドバイスなども重要です。その方法についても学びます。
⑧障害の理解
介護職員初任者研修では障害者への支援も学びます。
障害については現在三障害(身体・知的・精神)に分類されており、それぞれの障害に関して症状や支援方法を学んでいきます。
例えば、一般的に、「身体障害=車いすに乗っている」というイメージが強くあるのですが、実は、身体障害には、視覚・聴覚・言語そしゃく音声・肢体不自由・内部と5つに分類されています。
なので、単に「身体障害の人には○○のような支援が必要」といわれても、視覚障害の人と聴覚障害の人に対する支援方法は違います。
このようなことを学んでいくと、同じ肢体不自由の人でも支援方法が違う、ということがわかってきます。
そうすると、「同じ認知症の方でも支援方法が異なる」ことも理解できてきます。
すなわち、「障害や高齢であっても、一人ひとり支援方法が異なる」という考えとなり、これが「尊厳の保持」に繋がってくるのです。
⑨こころとからだのしくみと生活支援技術
この項目でいよいよ演習や実技に進みます。
実技については内容ごとに説明を加えていきます。
- 生活と家事
- 住環境
- 整容
- 移動・移乗
- 食事
- 入浴・清潔保持
- 排泄
1.生活と家事
介護保険法のホームヘルプサービス(訪問介護)では、生活援助(障害者総合支援法では家事援助)というサービスがあり、利用者の生活を支えていく援助を行うことができます。
例えば、調理・洗濯・掃除などです。
実際に調理を行う実技はありませんが、利用者に応じた食事形態などを学び、実際に活かしてもらいます。
2.住環境
居宅内の環境整備に関して学んでいきます。
環境整備を実際に行うのは、福祉用具専門相談員や建築士などですが、その必要性や活用方法については理解しておかなければなりません。
例えば、手すりが必要な利用者がいたとして、その設置を住宅改修の工務店にお願いをします。
もちろん専門家に頼むわけですから、その利用者に適する手すりの設置を行ってくれるはずですが、介護職の視点からも、手すりの形状や位置、太さなどのアドバイスができるとよいでしょう。
もちろん、他の職種からのアドバイスもありますから、それも正しく理解できるように学びます。
3.整容
洗髪やひげそり、化粧の方法などについて学んでいきます。
年を重ねると化粧は不要、などは大きな間違いです。
この整容の意義についても理解します。
4.移動・移乗
ここでは車いすの移動・杖歩行・視覚障害者の歩行などについて学びます。
車いすの押し方は単純なようでいろいろなコツがありますので、実際に押してもらい理解してもらいます。
また、杖の選び方なども学ぶので、利用者へのアドバイスもできるようになります。
移乗とは、乗り移りを指し、車いすからベッド、ベッドからポータブルトイレなどに乗り移る方法を学びます。
また、それに関係する体位変換の方法も学びます。
5.食事
ここでは実際にお弁当を用いて食事の介護を行います。
もちろん利用者によって方法が異なりますので、その利用者を想定して、どの部分を支援すればよいか考えながら実技を進めていきます。
6.入浴・清潔保持
身体をきれいに保つ方法について学んでいきます。
「入浴=清潔保持」だけではなく、利用者の状況に応じてたくさんの清潔保持の方法があることを理解します。
7.排泄
排泄の方法について学びます。
「おむつ交換」のイメージが強いかもしれません。
確かにこの項目では、おむつの着脱介助の方法も学びますが、高齢者・障害者がすべておむつをしているわけではありません。
また、「尊厳の保持」の観点からすると、排泄について介助されるということは自尊心を傷つけてしまうことにも繋がる可能性があります。
「尊厳を保持する排泄介助」とは何かを学びます。
⑩振り返り
文字通り、今まで学んできたことを振り返るという項目です。
また、今後の就業について考えていく時間にもなります。
これらをすべて修了した人は最後に修了評価(簡単なテスト)があります。
それに合格し、晴れて介護職員初任者研修修了者となれます。
さいごに
介護職員初任者研修で行われている内容が具体的にイメージできましたでしょうか。
介護職員初任者研修は誰でも受講できますし、家族に介護が必要な方がいる場合でも役に立つ資格です。
世界有数の長寿国である日本は、これからも高齢者の数は増え続けるといわれています。
そのなかで介護職員の数もますます必要となり、この介護職員初任者研修を含めた有資格者が求められる時代となってきます。
介護職員初任者研修は通信コースでも取得が可能ですので、興味があれば、お近くの学校に一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。