私の母が介護付き有料老人ホームに入居したのは2019年4月のことです。
自分が認知症であるという自覚がなく、介護に抵抗する母を、紆余曲折を経てなんとか有料老人ホームへ入居させるまでの話しをしたいと思います。
この記事を書いたライター
ワフウフ
2018年よりAmebaブログで認知症と診断された実母の介護日記「アルツフルデイズ」を書
き始める。
2019年一般の部でブログオブザイヤー優秀賞受賞。
現在、「毎日が発見ネット」で月に2回介護の体験記を連載中。
アルツフルデイズ
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老人ホームに入れるのは母のため
母の言動に違和感を覚えて脳ドッグに連れて行き、母が認知症であることが分かったのは2017年4月のことです。
認知症である事がわかったばかりの母は、身なりもきちんと整え、しっかりとした受け答えも出来たので一見しては認知症患者だとは分からない状態でした。
しかし、持病の糖尿病の治療で必要な、週に1度のインスリン注射のことが何度説明してもどうしても覚えられず、病院から「もうお一人での通院は無理なので、ご家族様の付き添いをお願いします」と電話がかかってきました。
通院のスケジュール管理と付き添いが必要になりました。
それから2年程の間は、通院に付き添ったり、母が父と暮らす実家に通って母の生活を補助をしていました。
しかし実家へは片道2時間ほどかかり、母の認知症が進むにつれ通う頻度が増えて、負担が大きくなりました。
母は父と暮らしていましたが、父の精神的経済的DVにより父と母の夫婦仲は元々良くはありませんでした。
そして、母が認知症になっても父は母の面倒は全くみてくれませんでした。
母が食事の準備が出来なくなり、糖尿病であるにも関わらず菓子パンや果物ばかり食べていても、父は自分の分の惣菜しか買ってきませんでした。
姉と私は病院の付き添いのたびに作り置きの食事を差し入れていたのですが、母は冷蔵庫に差し入れがあることも覚えていられなかったため、よく手付かずで冷蔵庫に残されたままになっていました。
せめて介護サービスを利用しようと介護認定を受けたのですが、父は介護サービスを受けるとお金がかかるからと、区役所に「介護認定など必要ない!娘たちが勝手にやったことだ!」と、クレームを入れて邪魔してくるほど、母のフォローに非協力的でした。
さらに、母に生活費も渡さないのに、お金の管理ができなくなった母から母名義の預金を取り上げようとまでする父でした。
処方された薬もきちんと飲めず、食事の管理も出来ず、持病の糖尿病も認知症もどんどん状態が悪くなって行き、父からの精神的経済的DVでストレスを受け続ける母のフォローを、通いで続けるのはもう限界だったのです。
協力して介護をしている姉とは、母の認知症が分かった頃からずっと、
「私たち娘のことも分からない状態になってしまったら施設に入れるのもやむを得ないよね」
と話していました。
だから、母の通いの介護に限界を感じつつも、まだ娘達のことはしっかり分かり、なんとか会話も出来て自分の意思を持つ母を、施設に入れるという決断がなかなか出来ませんでした。
しかし、父から受けるストレスで度々具合を悪くする母を見て、認知症の先生から
「認知症にはストレスが1番良くない。お父さんから離したほうがいい」
と言われ、施設に入れるのは母の為でもあると腹を括りました。
まずは地域包括支援センターで情報収集!
まずは地域包括支援センターでいただいた資料を見たり、インターネットで施設の情報を調べました。
気になるのは、認知症対応か、母は糖尿病のためインスリン注射も対応してもらえるか、もちろん月々の費用もですがそれだけではなく入居金の有無、そして場所です。
実家に通うのが大変だったので出来るだけ近い場所で探しました。
そしてそんな中、たまたま姉が自分の家からすぐの場所にある「サービス付き高齢者向け住宅」の入居者募集の看板を見つけました。
看板にあった電話番号に電話をしてみると、残念ながらそこは認知症対応ではなかったのですが、そこの広告を出している、老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の入居相談の会社が近くにあることを教えていただきました。
早速入居相談に伺い、母の状態や条件を伝えてご紹介いただいた施設は2つありました。
ひとつはサービス付き高齢者向け住宅、ひとつは介護付き有料老人ホームです。
その日のうちに2つの施設に見学の予約を入れました。
サービス付き高齢者向け住宅の見学
まず見学に行ったのはもともと施設を探すきっかけとなったのと同じ、サービス付き高齢者向け住宅です。
そこは姉の住む駅から3駅離れた場所にあり、駅からも徒歩5分ほどの近さでした。
外観は普通のマンションと変わりありませんでした。
見学させていただいた部屋も、普通の単身者向けのワンルームのようでした。
トイレは各部屋についていましたが、お風呂は階に3つほどあり、予約制となっていました。
洗濯乾燥機も各階ごとに自由に使用できます。
食事も申し込みをすれば提供していただけますが、基本的には各自自由です。
要するにそこは基本的にただの住宅であり、必要なサービスは食事にしてもデイサービスの利用についても、別途申し込みをするというシステムでした。
とても綺麗な外観で、お部屋には小さなキッチンスペースもついており、いかにも「施設」といった感じではないこの場所を母は気に入りそうでした。
でも、その当時で既に、母には見守りが足りないように感じました。
お風呂ひとつとっても、母には予約制だという事を覚えられそうになかったし、仮に予約を取れたとしても母は予約した日時を覚えていられない状態だったからです。
ある程度認知症が進み、これからもっと年老いて行く母が住み替えをする場所としてはフォローが物足りなく感じました。
介護付き有料老人ホームの見学
2つめに見学に行ったのは介護付き有料老人ホームです。
ここはなんと、姉の家から徒歩圏内でした。
建物は正直古く、見学した部屋も明らかに「施設」という印象でした。
実は、こちらの施設は入居相談をした際に相談会社の方に
「こちらは年齢層も介護度も高い方が多いので、もしかしてお母様は抵抗があるかもしれません」
言われていました。
そして、実際に見学したところ、言われていた通り確かに年齢層は高く、車椅子を使用している方もたくさんいました。
でも、正直にいえば認知症の母よりよほどしっかりしているように見えました。
たくさんの入居者さんやスタッフさんとすれ違いましたが、皆さんが挨拶してくださり、とても明るい印象を受けました。
ここでは老人ホーム内で訪問医の診察を受けることも出来るし、インスリン注射も常駐の看護師さんにお願い出来ます。
衣食住全般のフォローもお願い出来ます。
認知症の母にはやはり、サービス付き高齢者向け住宅ではなく介護付き老人ホームの方が適しているように感じました。
見学予約をした時には部屋の空きがなかったのに、見学当日にはひとつ空きが出ていたので、仮押さえをしていただくことにしました。
「父と離れて暮らそう」と説得を試みる
母には無断で介護付き老人ホームを仮押さえしたものの、母をどう説得するのかが1番の問題でした。
認知症とはいえ自分の意思をはっきり持っているのです。
本人が暮らす場所を無理強いする事はできません。
しかも、認知症の自覚もなく気だけは若い母。
薬局の服薬管理をお願いしようと提案しても、
「必要ないわ!私お薬だけは気をつけてちゃんと飲んでるもの!」
と言い、
もちろんデイサービスの利用などを提案しようものならば、
「ああいう所はお年寄りが行くものでしょ!」
と、まるで人ごとのようでした。
なので、「老人ホームに入ろう」という言い方ではなく、「お父さんから離れるために、家を出てわたしの家の近くに引っ越さない?」と説得することにしました。
元々父との生活に強いストレスを感じていた母は、その言葉には少し心を動かされたようで、
「お金がかかるわよね?それは大丈夫なの?」とか「お父さんは怒り狂うわよね?大丈夫かしら?」などと、繰り返し繰り返し聞いてきました。
しかし、「引っ越すか引っ越さないか」ということに関しては頑なに明言を避け続けました。
止むを得ず母の心が決まらないまま介護付き有料老人ホームに母を連れて行ってみたときは、
入居者さん達に声をかけていただいてお喋りを楽しみ、「ここなら楽しく暮らせそうね!」とまで言って入居の契約を済ませたのに、
翌日には「あそこに入りたくない」と言い出したりして、入居日ギリギリまで本当に振り回されて心休まらない日々でしたが、
最終的には母が信頼する認知症の主治医の先生からの
「ご主人からは離れたほうがいいです!絶対に引っ越したほうがいいですよ!」
という鶴の一声でやっと心を決めてくれました。
引っ越しの準備も一苦労…
母は父に見つかって家に連れ戻されることを恐れていたので、父が出かけている間に内緒で引越しを決行しました。
そのため引越し準備も秘密裏に行いました。持ち出す荷物は最小限にしてまとめ、普段使っていないタンスの中に引越し当日までしまっておきました。
しかし、母は荷物をまとめている最中でさえ
「私、引っ越すのよね?荷物をまとめておけばいいの?」
と言ったり、
部屋に広げた荷物を見て
「荷物がいっぱいねえ。片付けなくちゃね!」
と言ったりして、
娘たちが自分が引越し準備をしていることすら理解できない様子でした。
せっかく父から逃れるために密やかに準備を進めているのに、状況を理解出来ている出来ていないのかよく分からない状態の母が、うっかり父に引越しすることを言ってしまいやしないか、当日まで本当に冷や冷やしましたが、何とか無事に母を介護付き有料老人ホームへ引っ越しさせる事が出来ました。
老人ホームに入って母の顔つきは変わった!
認知症の人には生活環境の変化は良くないとよく言われますが、母はさほど混乱する事なく介護付き有料老人ホームでの生活に馴染んだように思えます。
認知症の先生には
「環境の変化よりもお父さんと生活するストレスの方がこの病気には良くないです」
と言われたのですが、本当にその通りでした。
自宅で生活していた時と何が1番違うかと言うと、母の顔つきです。
父と暮らしていた時より本当に穏やかな顔つきになりました。
最初の頃こそは、本人はまだ自分で何でも出来るという自負があったので、身の回りの世話を全てしてもらえることに対して、
「何もする事がなくてボケちゃいそうだわ!」
と不満を言っていましたが、老人ホームでの生活に慣れた今となっては、
「時間がくればご飯が出てくるし、お風呂も何にもしなくても行けば入れるし、お姫様みたいな楽な生活をさせてもらっているわ!」
と言っています。
仲良しのお友達も出来て、いつも部屋を行き来しておしゃべりを楽しんでいるようです。
母を老人ホームに入れると決めてから、入れてからも、住み慣れた家で晩年を過ごさせてあげられない事に何度も罪悪感を持ちました。
姉の前でお友達と電話をしていて、
「老人ホームになんて入れられて!」と母が言ったと聞いた時は本当に落ち込みました。
だけど今、父の支配から逃れ、食事も服薬もきちんと管理していただいて、穏やかな顔で過ごす母を見ていると、介護付き有料老人ホームの暮らしもそう悪くはなさそうだなと思います。
本人に適した環境を用意出来たと考えています。
残念ながら、介護付き有料老人ホームに入ってからも母の認知症は進行し続けています。
だけど母には、健康と安全に配慮された場所で、今迄父に苦労させられた分も幸せに暮らしてほしいと思っています。
早くコロナウィルスによる面会禁止が解除され、母と近所の散歩を楽しめる日が来ることを願って止みません。